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2008年11月 7日 (金)

微光

はいさい持ってきましたよ~
fkmt夢文!
出所はもちさんのサイト「ゲテモノ」よりbookshine
・・・
ほんとおいら夢文好きだなぁ~(゚ー゚;
以下続きにもちさん作の平井銀二夢を掲載しています。

もちさんからの制裁により、挿絵を一枚描きましたimpact
・・・
これでよいかどうかの許可もとっていないのに掲載するあたり、再び制裁をうけるかもww

ヒロイン名は宮原 白(ミヤハラ マシロ)virgoheart04
銀とか金にくっついたら言葉になる名前にしようと白にしたあたり、ウマイッ!と思ったのはおいらだけか??
白金とか銀白とか白銀とか…て、なんかいい。

一発で正しく読まれない名前は、安田さんにたまに犬っぽくシロと呼ばれるから本人は嫌がるとかいう裏設定もあ
り・・・妄想がノンストップですな、もちさん(゚m゚*)

夢小説に嫌悪感を抱かない方のみ、続きをご覧ください・・・heart

もう冬なんだなと、車の中に入ってもひんやりとした空気とシートが体を包んだ時に改めて実感する。

自然と背筋が伸び、その冷気をこれ以上取り込んでなるものかと呼吸がいつもよりも緩慢としていた。
ちらと、自分が座っている助手席の窓から外を見れば、明るい電飾を身にまとったビルや店が立ち並びそれを楽しそうに見ながら歩く人々の姿が見える。

ふと、視界の端に淑やかそうな、初老の男性とまだ自分と同じく妙齢であろう女性……というよりも女の子が腕を組みながら幸せそうに笑い合い歩いて行くのを捉え、視線が釘付けになった。
----あれは親子なのだろうか。それとも……。今のご時世、自分のような第三者がちらと見ただけではその人たちの関係性を窺い知ることはあまり容易ではないが妙に気になってしまった。本当に下世話な事で申し訳ないが。

恋人同士だったらいいのに。
どうしても頭の中でその女の子を自分と重ねてしまう。 そして、片方の男性をあの人へ。
自分の希望的観測のゴール地点と似ているだからだろうか、思索にふけて絶対に訪れる事がないゴール地点だなという答えがこの能天気な自分でもすぐに弾き出 され、思わず成就するのはどこまで絶望的な可能性なのだろうとすぐ隣に居る想い人に見えぬように、自嘲するような薄笑いを浮かべた。
ぐるぐると、言い表せないような黒い感情と苦しさが胸の中や頭の中で渦巻くのが自分でも分かるからたちが悪い。
諦めが悪い、というのは時に自分の一番の短所になるなと思う。

白?……どうかしたか」
さっきの感情のど真ん中、もとい発生源に居るといっても過言ではないその人からいきなり声をかけられ体を一瞬強張らせた。
思わず窓からすぐさま目を逸らし銀さんに、……『その人』であり、『想い人』である平井銀二に視線を移す。 いつもどうしても思慕の念を込め盗み見てしまう切れ長の眼は、今は自分を怪訝そうな表情で見つめている。

「えっ、あ?あっ……いえいえ、ごめんなさい銀さん、いつも以上にボーッとしてました」
「…フフ、そりゃ深刻じゃねえか。」
「自分で言っといてなんですが……失礼なー。」

また、銀さんがくつくつと笑う。 それに対してまた私は胸の中の何かがぐぐっと締め付けられるのを感じていた。
周りにだけでなく、己まで峻厳に難詰しているようなこの人が柔らかく表情を崩すのが、私はとても好きだった。

「あ……そういえばまだ言ってませんでした、銀さん、夜ご飯ごちそうさまです。」
「ん? あぁ…、よく食ったなお前。懐がえらく軽くなったよ……。もうスッカラカンだ」
「ちょっ… 普通!普通ですっ…!!」
「ハハッ、冗談だ冗談……。 お前はもうちょっと食った方がいいぞ、足も腕も握られたら折れんじゃねえのか」
銀さんが車のギアチェンジのレバーをカチカチと動かしながら言う。 それと連動するかのようにヒーターが段々と車内を温かくし、冷え切った指先にじんわりと血が行き渡っていくような気がした。

「大丈夫ですよー。 そんな言うほどか細いってわけじゃないでしょ」
「ほー……。じゃ、試しに握らせてくれるか?」
「えぇっ?!」
「冗談だ。」

素っ頓狂な声を上げたすぐ後に訂正される。
この人相手だとこんな冗談にでも赤面してしまう自分が恥ずかしくもあり、どこか滑稽でもあった。

「も、もう……。」

冗談だと分かりきっていても未だ熱を帯びていく頬を誤魔化すように顔を俯かせ、携帯の画面に目をやる。
12月17日、午後九時十二分……日曜日。

(あらら……そっか、今日って日曜日なのか。 でもってもうクリスマスの一週間前……。)

仕事に没頭していると季節感や曜日感覚がなくなるというのは本当なんだなと改めて自覚した。
専ら家に居て、正直人に褒めてもらえるような仕事ではない仕事をしている自分にとってはそれが顕著に現れる。
隣でハンドルを握りながら煙草をふかしているこの人ならば、どれだけ仕事をしていても忙しくてもこんな現代版浦島太郎みたいな状態になる事はないだろうが。

クリスマス前で日曜日。どおりで先ほどから恋人同士だととれる二人組や家族連れが多いはずだ。きらきらと光るイルミネーションの前では少し目のやり場に困る様なシーンを繰り広げているカップルもいる。
(クリスマスか……私にはもう無関係なイベント、かな。)

勿論、全くの無関係というものでもない。が、世間一般での自分と同じような年齢の人たちが過ごす一日の流れには明らかに隔たりを感じる部分がある。
おそらく、今年も例年通り安田さん達に無理やりクラブにでも連れ回され、呑まされる事になるか、仕事漬けになるか。前者であればいい方だ。安田さんに店の女の子の事で愚痴られたりするのは頭が痛いが。
…でも、そんな様子を見て一人静かに笑っている銀さんが近くにいる。それだけでクリスマスは私にとって特別な日だった。

でも、最近は何かが色々と、段々と、確実に変化してきている。

私が銀さんへの気持ちに気付いてからだ。

今までは世間一般と、自分の違いに全然文句や不満などはなかった。……いや、よく考えればこれは得意になって言う事ではないだろう。当然の事だ。色々なも のをかなぐり捨て、自分で決心してからこの世界に入り、その上色々な人のものを奪ってきたというのに、都合よくあれもこれもと欲しがるのは我儘で傲慢だと 自分でも思う。
どんな事だって全部を手に入れるのは無理だ。 その上、私が今望んでいる事というのは、この世界で生きる事と最も対極をなす位置にある。
絶望的だと答えは弾き出されているにもかかわらず、気持ちがまだ抑えきれない。自分を捨てきれずにいる。

「おい、白……」
「え、あっ何ですか?」
「えらく暗い顔じゃねえか、どうした」
「あぁ、えっと……。」
捨てたいと思っている癖に、自分を捨てきれずにいる。その場をこうして適当に凌ごうとしている。
歩み寄りもせず拒否もせず、している行動と言えばただ凌いでいるだけだ。 それなのに、想いをどうにかしたいと思う。 勝手に絶望する。勝手に葛藤する。
そうして、こうして好きな人に余計な陰りを見せてしまっている。上手く形容する言葉ももはや思いつかないほど、私はどうしようもなかった。

「その、……私は変に諦め悪い所治さなきゃいけないなって思って……。」
「フフ…なんだ、いきなり。 いいじゃねえか、この世界で生きてるんなら変に諦め悪いのはいい事だ…まあ……勿論状況にもよるけどな。」

少し先の交差点での信号がパッと赤に変わる。銀さんが車の速度をゆっくりと落として停車させた。車を出してからもう五分以上は経つだろうか、車内はすっか りヒーターで暖まっている。それに比例して体もすっかりと熱を取り戻していた。 それなのに、私は何だか落ち着かなかった。
前の車線を横切っていく車の光と木々についたイルミネーションが、淡く照らされているだけの車内を時折照射させていく。

「確かに状況にもよりますけど……私の諦め悪い所はあまりよくないっていうか、何だか自分でもズルズルしてて嫌な感じがするんですよ。安田さんあたりがよく愚痴ってるような女の人の典型的な悪い所みたいな……すごく女々しい所というか……。」
最後にあははと茶化すように笑い、少しだけ明るく振舞った。銀さんはまたククッと静かに笑うと懐から煙草を取り出し、火をつける。淀みのない流れのようなその仕草にまた私は見惚れていた。

「……女々しいのも女のいい所なんじゃねえか?」
「えっ?」

「好きだよ、俺は」
今まで前を向いていた銀さんが、私を見ながら言った。 銀さんにぼんやりと視線を合わせていた私と当然視線がかち合い、じっと見つめ合う形になる。
瞬間、外の喧噪も聞こえない気がした。
車内のライトの薄暗い光が銀さんのいつもの常闇のような瞳を照らし出す。いつも思わず見惚れている、焦がれてしまうその瞳の中に今は自分が居るのだ。
勿体無いとも思ったが、とても耐えきれず視線をすぐさま下に落とした。
……揺れ。
ぐらぐらと誰かに足元から揺るがされるような感じと、何ともいえない痛みが襲う。でも、それは決して嫌な揺さぶり、痛みではない。

(また……)
胸と胃の辺りがきゅうっと痛くなり、心臓もうるさく主張し始める。苦しかった。
顔がうっとおしいほどに火照りだしたような気もするが、ごくたまに、さぁっと少しだけ身の毛がよだつ様な冷たさ、戦慄を覚える。
人を想うという事は、これ程までに揺るがされる事なのかと思うと複雑な気分になる。恐れでも感動でもなく……ただ複雑だ。

「ぎ、銀さん……それ物凄い女殺しのセリフですね……。」
誤魔化すようになんとか必死に言葉を捻りだす。銀さんは特に意図せずしたであろう言動なのに、今の自分には思考に霞がかかり、それらをうまく整理する事が出来ない。

「女殺しか……」
「あ、いや、なんとなく……その、ねぇ……。」
逃げ出したい気分だった。
頭の中のありとあらゆる糸がこんがらがっている。

「なあ、白」
どことなくゆっくりと、呟くように銀さんが私を呼んだ。

「じゃあ、お前も……。 殺されてくれるか?」
「……え……?」

最後にぽつりと言った言葉は聞き取りにくかった。けれど、銀さんは確かに言ったと思う。
"殺されてくれるか?"と。
今の流れからしてその言葉は恐らく……いや、十中八九本来の言葉通りの意味ではない。
そうなのなら……どういう意味だろう。結論はうっすらと出ているが今の動揺した気分ではこの頭や心の中に無数に現れた隘路を切り開く事は出来ないようだった。

私が"女殺し"だと言ったのは、実際に銀さんが沢山の女性に慕われている場面をいくつも見てきたからというのもある。 まだ人を想う事の酸いも甘いも分かっていない程度の私が惹かれる位なのだから……銀王とも呼ばれる人を好きになる人は数え切れないほどにいた。
そういう店でもないのに何とはなしに寄ってくる女の人。本気ではなく、興味本位だという人も勿論いたと思うが、それでも平井銀二という人物に惹かれている事には間違いない。
私はその光景を見る度に安田さんや巽さんが「銀さんにゃあ敵わねえよなあ、面倒臭ぇプロセスいらずで羨ましいぜ……ったく」と、隣で愚痴るのを聞きながら、視界が微かに揺らぐのを必死に耐えていた。
飲みなれないお酒のせいだと思い込もうとしていた。 持ってはいけないはずの嫉妬という感情と、どうしようもないという気持ちを心の中でひたすら殴りつけているのを自覚していたにもかかわらず。

「あの銀さんそれは、どういう、意味」
「お前、時間あるか?これから……」

私の発言を完全に端折るように銀さんは前を見ながら言った。いつの間にか信号は青になり、車も進みだす。

「はい……?」
「時間あるかって聞いてるんだよ」
「ありますけど……どうして?」
「付き合えよ、一時間程度……まあ三十分ほどでもいいさ。」
そう言うと二つ目の交差点でウィンカーを出し、左に曲がる。私が住まわせてもらっている銀さんのマンションへの道とも、銀さんが今主に生活をしているマンションとも正反対だ。

「銀さん、道……」
「いいんだ。」
そう言ったきり、私も銀さんも口を開くことはなく、車内は寂寞としていた。気まずくもあったが、少しほっとする。先ほどの一連の事についてゆっくりと考える事が出来るからだ。
とは言っても……出来たには出来たが、銀さんがあの問いただそうとした私の言葉を完璧に端折ってしまった以上、やはり無駄に蒸し返さない方がいいだろうかという事に結論づく。

いや、これは言い訳で、それよりもこれからどこに向かうのだろうという問題が気になって、思考を邪魔し、先ほどの結論以外にいい答えが見つからなかったというのが大部分を占めていたり、行き先が仕事に関わる事であれば余計な問答を避けたいというのもあるのだが。

……新しい仕事に何か私が必要な場面でもあるのだろうか。しかし、主に裏方で書類や情報整理している私が表に出る事は滅多にない為、それは考えづらい。

(……何なんだろう? もう、色々と……。)
ぐるぐると色んな事を考え過ぎたのか一気にドッと疲れのようなものが全身にのしかかってきたような気がする。 考え過ぎている……そのくせ何一つ自信を持てる結論は無いに等しいのだからタチが悪い。
こんな状況にも関わらず、思わず欠伸が出そうになるのを私は必死に噛み殺した。 人間どんなに悩んでいても、考える事があっても食欲、眠気等の色んな欲からは逃れる事が出来ないのだなと改めて痛感する。

元々、今日は銀さんに頼まれた割と大きな仕事をやっとの事で仕上げ、銀行に向かった帰り道に銀さんと遭遇したのだ。
丁度いいから乗って行けと、家まで送ってくれるとの申し出を表面では遠慮しながらも喜々として車に乗り込み、それが運のいい事に夕食の時間帯で何となく、の流れで夕食も共にした。
デートでも何でもない。それでも私はずっと笑っていたような気がする。 嬉しかった。

(……そんなまま今日が終わればよかったのに)
そうであればきっと今日という日の支えでまた明日から笑って過ごせたような気がする。銀さんへの気持ちも別な感情へと変える事が出来ていたかもしれない。




「……、おい、 白……。起きろ」
近くで声が聞こえた。本当に薄らと瞼を開けると視界はかなりぼんやりとしている。 頬には何か温かいものが触れていて、無意識的に私はまた瞳を閉じそれに軽く甘えるように顔を預けた。

「……白。」
「んー。 ん、……なっ……」

心地よいその独特な甘く感じる低い声は間近から聞こえてくる。ゆっくりと瞼を開け、その声の主を確認すると同時に、霞がかっている思考が悪い意味で真っ白になり、起きぬけの呆けた顔の筋肉が一瞬にして強張ってそれとは反対に口からは間抜けな声が漏れ出た。

「だっ…ぎ、銀さん……。」

完全に意識を覚醒させると段々と状況が見えてくる。銀さんは運転席から私の助手席の方に少し身を乗り出して、こちらの顔を覗き込んでいた。車のエンジンを 切ったのか、車内のヒーターは止まっている。しかし、まだエンジンを切ったのはつい先ほどの事なのか車内はまだ冷え込んではいなかった。

状況が把握できても自分の置かれている現状を上手く解義出来ず、ひどく驚き入っている私とは対照的に、銀さんは私が起きたと分かると、とても落ち着いた様子で私の顔から手をどけ、車のドアを開け外に出て行ってしまった。

「え、ちょっと……あの、銀さん!」
思わず呆けていたが、すぐに自分もそれを追いかける。

車を降り、周りを見渡すとそこはどこか、見たことのある様な風景だった。 時折静かにザザ…と波の音のようなものが聞こえる。 もっと目を凝らすと、それ は"波のようなもの"でなく、本当に波の音である事が分かる。遠方に少し弱々しい光が見えるだけだからなのかすぐには分からなかったが、自分の居る場所は 間違いなく海辺だった。
とはいっても、砂浜ではなくそこは人の手によって作られた人工渚があるような場所で、確かこの近くには臨海公園や長い煉瓦道があったはずだ。 もっと行く と大きな観覧車があると暇つぶしで読んだ雑誌に載っていた記憶があるが、むしろ興味があったのは隣のページの物凄いドロドロとしたもはやギャグと化してい る嫁姑物漫画であり、その臨海公園の内容は完全に頭には入っていなかった。

まだこの地区の開発は進むのか、工事中の場所もいくつか見受けられる。

前を見ると、銀さんがすたすたと、冷たい風が吹き荒れている中を何も感じていないように歩いている姿が見えた。
「ま、待って下さい!」
何故か無性に胸騒ぎがして、転ばないように気を懸けながらも駆け足で銀さんに走り寄る。寒風が痛いほどに身に突き刺さった。
最初の方はすぐに済むちょっとした用事の為に出かけた所為で、私の身なりはあまり防寒に適しているとはいえない。厚手のダウンジャケットでも着てきた方がよかったと、少しだけ適当に羽織ってきただけのニットコートの裾を引っ張りながらそれを睥睨する。

「そんだけ足出してりゃどんな上着着ても寒いんじゃねえのか?」
「えっ?!……あ、はい……。」

いきなり声をかけられ、また素っ頓狂な声が出る。私が起きてから、思えば開口一番の銀さんの言葉だ。ちゃんと見ていたのか、と銀さんの顔をそろりと窺うが今はもう元の通りに真正面を見て歩を進めている。 一体どこまで行くのだろうか。
そう思っていると銀さんがいきなり立ち止まった。 ここは確か、歩き始めた時近くにあった煉瓦道に繋がっているところだ。
地面は、どこか保養地にあるコテージのバルコニーのように木で舗装されている。銀さんの隣に並ぶような形でそこに足を踏み入れるとその木の道が、ヒールのせいか独特な音を響かせる。
私は海に面したそこにある柵につかまり、前を見た。最初の場所よりは明かりが多く、遠方にも高いビルがぽつぽつとあるのが分かる。 ……隣にいる銀さんの顔も、よく見える。

それでも視界に広がる、暗く黒い海はどこか不安を煽った。足元を見るとふとそこに飲み込まれるのではないかという感覚に陥り、柵につかまる力が自然と強まる。

「銀さん……、あの、どうしてここに?」
「前、見てな」
銀さんは腕時計を確認すると私に前を見るよう促した。

前を見ても特に先程と変わりはない。 ところどころにあるどこか侘しくなってしまう頼りない灯りと、暗い海の-----。
……いや、よく見ると違っている。
暗くて気がつかなかったが私たちの居るところのほんの目と鼻の先には、こちらを取り囲むような木々があった。 しかし、今は見える。木々に少しだけ付いているイルミネーションのような小さな灯りがぽつぽつと点灯し始めたからだ。
まるで夏の沢の蛍のようにそれらは段々と主張を始める。

「え?……あ、あっ……。わあっ……!」

辺りがすっかりと明るくなり、その灯りが最高潮に達したかと思うとその光が水面に反射して時折波にさらわれゆらゆらと揺れていた。
上手く言葉では表せにくいが、何とも幻想的で、不思議な感じがする。さっきとは打って変わって今は華やかで、どこか穏やかな光に囲まれているのだ。 段々と、季節柄寒いのには変わりないはずなのにそれが気にならなくなってくる。
連鎖するように自分でも表情が柔和になるのが分かった。

「あははっ……すごい…、すごい!何ですかこれっ……」
「ククッ、凄いだろ……。特等席だよここは……。 クリスマス前のメンテナンスでな、この日は少しの間だけこんな景色が見られるんだと」

銀さんもどこか表情を綻ばせ、すっかり最前とは一変して気分を昂らせている私の頭をぽんぽんと撫でつけると、目の前に広がっている光景にすっかり目を細めていた。
それほどまでに、すっかり目の前の眺めは数分間前とは違っている。先程の弱々しい灯りが、嘘のようだった。

「はぁ~。 あ、でもどうして……」
"どうして私と見に来たのか"。 続きを言おうとしたが、何となく途中で中断させてしまう。
聞いてしまうと後には戻れない気がした。

「終わりにしたかった。」
静かな語調で銀さんが呟いた。 思わず泳がせていた視線を銀さんの方に合わせると、いつものような強さを持った、どこか決心しているかのような瞳が私をじっと見つめている。 つい先程、といっても時間的にはもう大分前になってしまうだろうがあの車の中で見つめられた時のような目だ。
重圧されてしまうようで耐えきれずまた、視線をそらそうとする。

「逃げるなよ」
両肩を手で強く掴まれ、思わず身をこわばらせると今度は顔の両端を包むようにされ、軽く持ち上げられた。つられるように視線も上向き、目が合う。 そんなつもりはないかもしれないが、今の私にとってはどことなく威迫するような目つきに感じた。
余程気圧されてしまっている顔をしていたのか、銀さんが少し笑いながらぽつりと、取って食うわけじゃねえさ、と小さな声で呟く。

「こういうのも、"女殺し"な事だろ? こういう……そこらのドラマだか小説だかでありふれているようなもの」
周りを軽く見渡すと、顔の両端をそえるようにしていた手の片方を私の背中へとまわして行った。
こういうもの、とは今周りに広がっている光景のような事だろうか。 ……確かに"女殺し"な事だと思う。普通の恋人同士なんかで来ると女の子の方は嬉しくなるんじゃないだろうか。
そう、"普通"であれば。

白、お前言ったな……変に諦めが悪い所が自分の悪い所だと。 確かにそうだ、お前は仕事の面やそれ以外の事でも……。
でもな、俺に対しては違うんだ。 言うなら真逆、諦めがいい。だがその癖、自分の感情の扱い方がガキ以下……。 俺から逃げ回る。」

何も言えなかった。

「いい加減逃げ回るのもその場凌ぎもやめな。大人しく俺に殺されてろ……最初から自分で自分を殺してんじゃねえ」

呼吸が苦しい。

「……白、俺はお前が」

その続きを聞く前に私は思いっきり銀さんを突き放した。自分でも押してしまった後呆然とする。
銀さんはというと思わぬ不意打ちだったのか、少し体制を崩し足をよろけさせていた。しかしすぐに体制を持ち直すと、こちらをじっと見つめる。
今の私ではその眼差しの真意を汲み取る事は出来なかった。

白っ……!」
「や、やめて下さい……。お願いですから……。」

声は震えてきっていた。それは決して寒さのせいではない。
今起こっている事と、銀さんを突き放さなければ訪れていた結果に対しての感情からだ。それが畏怖心か何なのかは分からないが。

「それは嫌だからなのか? だったらはっきりとそう言えばいい」
「……。」
「また、逃げるか」

銀さんがあまり面白くなさそうにククッと笑いながらまた少しずつ私に近付き、両肩を掴んだ。

「もう一度聞く。……嫌か?俺にそういう感情を持たれる事は」
逃げるな、黙っているという事も許さないと言うように両肩を掴む力は強い。

「……い、嫌じゃないです……。」
まだ声が震えていて、視線もすっかり足元に落としていたが何とか口に出す。
そうすると両肩を掴む力は僅かに弱まったような気がした。 それでも、未だこの張りつめた空気は緩まる兆しを見せない。

「なら、いいだろう……。」
泣けてくるほどに銀さんは優しい口調だった。

「よく、よくない……よくないんです……。」
「どうしてだ?」
我慢しきれずについに涙が溢れ出てくる。呼吸のリズムもすっかり乱れ、今まで以上に上手く言葉も出てこない。 それでも銀さんは子供をあやすように、両肩 を掴んでいた手をゆっくりと、今度は両手を私の背中に回し、自分に引き寄せた。しっかりとしたロングコートを着ている為か銀さんの腕の中は暖かい。
私の頭をゆっくりとした手つきで撫でた後、耳元で何でもいいから言ってみな、と言葉をやんわりと促してくれた。

「……変だから……普通じゃないから……そ、それに……」
「それに?」
「つ、釣り合わない、し……迷惑掛ける……怖いそれが……私の事はどうでも、どうなっても、いいです、けどっ……銀さんにそういうの、嫌だ……だから……」

よくないんです、と最後の一言をやっとの事で言い終える。 考えてみればかなり支離滅裂としている内容だ。 その上かなり嗚咽混じりに言った為、全部が全部銀さんに伝わっているか不安になる。

「……ひとつ教えてくれ。普通じゃないってのはどういう事だ? 俺達が裏で生きてるからか……?」
銀さんが腕の中で必死に涙を拭っている私にまた優しく聞いてきた。温かい銀さんの胸板と、とくんと聞こえる心音が相俟ってか、不思議と気分が落ち着いていくのが分かる。

「違います……年の差、とか」
そう言うと銀さんは少し苦笑しているような笑いを静かに漏らした。
「何だ、こんな親父とはアレか」
「そ、そっちじゃ、なくて……全く気にしないって言ったら嘘になるかもしれない、けど……そんな私自身の問題はどうでもいいんです。でも、周りの人とかに、銀さんが馬鹿にされるのは嫌で……。
誰だって、誰だって好きな人が嫌な事されたら嫌……あっ」

考えるままを口に出していると、思わぬ発言をしてしまった事に気づく。 言い直そうとしたがその事に自ら混乱し、上手く口を動かせることが出来なかった。
思わず銀さんの腕の中で顔を上げる。

「……フフ、意外にあっさりした告白してくれるんだな、お前は」
面白くて仕方がない、というような顔で銀さんはぽかんとしている私の頭をまた撫でつけた。
もはや、今のは間違いだと言えない。

……いや、本当の事なのだから、間違いだという必要も本来はないが。
私は長い間溜め込んでいた感情を、さりげなくであってもやっと吐き出したからか、ようやく物事をすんなりと受け止め始め、理解し始めていた。
言ってしまえば物凄くあっけない。心臓がうるさく苦しくはあるが何かつっかえていた物が取れたような気がした。
どうしてもっと向き合わなかったのだろうか。認めなかったのだろうか。
私は、平井銀二が本当に心の底から好きなんだ、と。
それも、くだらない逃げや感情に振り回されるほどに好きなんだと。

「認めてくれてありがとう」
耳元で優しく、追い打ちをかけるように囁かれる。

「でもまあ、こういう場面では男に先に言わせてくれねえとな……。」
指で涙をぐい、と拭われたかと思うと銀さんの顔が近付き、額と額が合わさった。 色気のない言い方をすれば漫画やドラマによくある熱を測る時の様な感じだ。
今までにない至近距離で見つめられているが、先程とは違い、もう逃げようとも怖いとも、思わない。
ただ、愛しかった。

「銀さん……。」
「好きだ、白」

一瞬、うるさく鳴っていた心臓がひと際大きく主張をしたような気がした。 ゆっくりと銀さんの顔が少しだけ離れると力強く抱き締められる。今度はそれに応 えようと私も銀さんの腰に腕を回した。 見た感じでは少し線が細い印象も見受けられるが、がっしりとした、男の人の体つきなんだなと妙に感動している自分 が滑稽に思え、薄く笑う。とても心地がいい。

しかし、ずっとこうしていたいと私が思うのとは裏腹に、銀さんの方は腕の力を段々と弱め始めていた。
その動きに合わせ、私も慌てて腕の力を弱めて銀さんの胸にうずまっていた顔を離す。
仕方ない……それはそうだ、ずっとこうしている訳にもいかないのだから。

分かっていながらもそれが残念に思え、思わず銀さんの顔を窺う。

「!……んんっ」
私の唇に銀さんの唇が触れ、銀さんの手が私の後頭部をしっかりと支えていた。セオリーとしては目を瞑るものなんだろうが、私は驚きの余り閉じれずにいる。
まあ一瞬で終わるものだろうと思っていたが、どうやらそうではなさそうだった。一度唇が離されたと思えばまた角度を変え深く口付けられる。その離された時に自然と口が無防備にも大きく開いてしまい、ぬる、と銀さんの舌の侵入を簡単に許してしまっていた。

「ん、……あっ……んん」
耳につく水音と、自分でもおかしな声だと分かるものが合間に出始め、さすがにここでこれ以上はと思い私は銀さんを軽く押した。だが、それで体は少し離れても後頭部を支えている手のせいで肝心な部分は逃げられない。
先程の件があるから強く押し出すのは気が引けたが、本当に色々とどうにかなってしまいそうでもう一度銀さんの体を強く押した。
ようやく押さえつけていた手が離れ、唇がゆっくりと離された。

「ククク……逃げるなって……」
「に、逃げますよこれは誰でも……!」
思わず咳込みながら銀さんを睨みつける。そうすると銀さんがまたくつくつと笑いながら私を抱きよせ、背中を介抱するかのようにさすった。

「悪い悪い、ここまでするつもりはなかったんだがな……年食うと焦るのかね」
そう言うと片腕で私を自身に寄せながら片方の手で頬をゆっくりと撫でる。温かく、やはり落ち着いてしまう。思えば起きぬけの時にもこうされていたな、と今ではあの時間さえも懐かしく思えるのが不思議だった。

白……。」
「……もう一回だけ、しちゃいましょうか」

そう言うと一瞬珍しいぽかんとした顔をしていたが、また笑われてしまう。
それでも全く悔しいという感情もなく、温かい。

「あぁ……そういやもう消えるな、これ」
「え?何がですか」
「周りの灯り……。もうそろそろ消えちまう時間だ。元はメンテナンスの為だからな、そう長くはつけられねえんだろう」
「そうなんですか……。」
「本番はもっと派手になるだろうな、その時は連れてこられねえと思うけどよ……。」

銀さんが少し申し訳なさそうに言ったような気がした。

「……銀さん」
思わず銀さんを抱き締める。銀さんはそれに応えるように抱き締め返してくれたが、どこか強く諭すような語調で私に話し始めた。

白、俺達はお前が言ったとおり、普通じゃないのかもしれない。 年の問題がもしなくてもな……。でもそんな事はどうだっていいんだ」 私は黙って頷き、先を促す。

「どうだっていいが……それらを認める事はしなくちゃならねえ……。
俺達は褒められるような事はとてもじゃないがしてない……悪党だって事と、それには高い代償を払わなきゃいけない事もあると……、
カタギのような生き方は時々しか出来ない事もあると……。」

「……分かってます。」

そう呟くと、今更だったかと少し銀さんが笑った。
分かっている。
これが始まりでも終わりではないという事、普通では居られないという事。

「普通じゃないから」と、気にして泣いている場合ではなく、もう「普通じゃないんだ」と半ば居直ってしまうように認めなくてはならないのだ。
そうしないとこれから先はとてもではないが、この人に着いていけなくなるだろう。好き合う事も出来なくなる。
そう考えると胸が痛くなった。

「銀さん……私は……。 私を、ずっと傍に置いて下さい。 光が、色んなものが消えても」

今居るこの場の穏やかな光だけではない。
私のとっての光は、ごく身近に周りにあるものだ。"普通"というものも、その光に包まれている。
普通の人達はその光を追い求め、維持する為に日々生きているのだろう。私もかつてはそうだった。
でも、もうそんな光は消してしまっても構わない。
銀さんと、平井銀二ときちんと向き合って生きようと決めた。

そう言うと銀さんがまたゆっくりと顔を近づけ、額を合わせる。

「言われなくてもな……。 逃げたいなんて言っても、もう逃がさねえよ」
どこか凄んだ、相手を閉じ込めてしまうような、縛ってしまうような言い方にも関わらず、銀さんに少しの不安の色が見えたような気がした。 小さく、本当に離れるなよと言うのが聞こえた。
それに返すように、もう逃げませんと語調を強くして言ってから、銀さんを抱き締めている腕に力を込める。

耳元で愛してる、と呟かれたと思うとまた唇が奪われる。今度は本当にゆっくりとした優しい口付けで私も少し顔の角度を変えそれに応えた。
周りの光が消え始め、段々と辺りは仄暗くなっていく。

余った灯りを自分で消すように、私はゆっくりと瞳を閉じた。
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コメント

こんにちは!
見た瞬間「UWAAAAAA!!」ってなりました…!がっ…がっ…!
ライスさんありがとう…!優しい…優しいライスさん…!
夢絵、自分でも描いたりするんですけどいまいちしっくりこない事が多々あるんですが……ライスさんが描かれたやつは何だか凄く萌えました…!即右クリ…!1000000000回…!

いえいえ、文掲載okですw 制裁なんて…こんな妄想の塊から素敵絵描いてもらったのに言うわけないんだぜ…!

私の方こそライスさんの絵またどこかに飾ってしまうかもしれませんがよろしいでしょうかw
もう本当にありがとうございます! 僥倖すぎて泣ける…。

おおっ・・・!
思いの外バルバルしてますねもちさん!(笑)
やった甲斐がありましたヽ(*≧ε≦*)φ
ここのイラストは持ち出しOKっすよcancerup
特に今回はもちさんに特許があります★
似るなり焼き土下座なりご自由に!

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